代表取締役

佐藤 昌樹

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建築にかける想い

かつて、大学に入って建築を志して勉強を始めたころ、スター建築家が、世界を股にかけて活動していることに、憧れを抱いていました。自分もそうなりたいと思いながらも、何故か漠然と街づくりに関わりたいとも思っていました。

都市計画をやりたいわけではなく、建築の設計をやりたかったのですが、なんとなく、「小さな島に小さな街ひとつ作ったりしたら、楽しいだろうなぁ」などと、訳のわからないことを言っていました。大学4年の時にお世話になった鈴木恂先生は、オリジナリティ溢れるスター建築家でしたが、同時に集落の研究もされていて、そのお話を興味深く拝聴していました。

何がやりたいのか良くわからぬまま、大学を卒業し、仙田満先生率いる環境デザイン研究所に就職しました。仙田先生のテーマは「こどもの遊び環境」で、児童館・科学館をはじめとする建築や、公園、遊具と幅広いジャンルを横断的にデザインし、全国で仕事をしていました。
当然そのスタッフとして働いていた私も、全国各地で建築をさせていただく機会に恵まれ、さまざまな人との交流とさまざまな体験をさせていただきました。大学を出たとはいえ、正直何も分かっていない私が、さまざまな経験を、どんどん吸収できることは、とてつもない喜びであり、無我夢中で働いていました。滅茶苦茶な労働時間と労働環境でしたが、それが苦にはなりませんでした。

そうして、10年間お世話になって、独立しました。

最初から独立することを夢見ていましたし、また会社の先輩も数多く独立していましたので、独立することは当然のことのように思っていました。今にして思うと、何をやりたいのか自分でわかっていなかったように思えます。でも、当時はそんな疑問を持つことすらありませんでした。きっと、独立したら、仕事がもらえて、やがて自分も一流と言われる建築家になるんだと、信じて疑いませんでした。
大学進学のために上京して以来ずっと東京でしたし、なにより、その当時は、地方の建築家で有名な人など殆どいない頃でしたので、迷わず東京で独立をしました。独立してみると、貧しいながらも少しずつ仕事をいただき、それらの仕事一つ一つに全力で取り組みました。

仕事を頂く確立されたルートなど全くなく、友達や知人の紹介だけが頼りでしたが、ある時、同窓会で北海道に居た幼馴染が帰郷して水戸で歯科医院を開業するという話を聞き、何回か相談に乗っているうちに、設計をやらせていただけることになりました。
メインストリートの一本裏の立地で、周囲は、メインストリートに建つビルの搬入口などが並ぶ、雑然とした場所でしたが、矯正歯科を営む施主の要望は、「矯正歯科は小学校位と結婚適齢期の女性が対象となるので、小学生のお母さんとか、20代位の女性が好む建築にしてほしい」と言われ、「それじゃあ、(当時流行っていた)イタメシ屋みたいな歯医者にしよう。周辺は汚いから、掃き溜めに鶴だ。」と提案し、その案が採用されました。
無事竣工し、施主にも喜んでいただいて、満足していましたが、郷里だからどうこうという想いはあまりなく、それからしばらく、以前のように、依頼されればどこででも仕事をするというスタンスで働いていました。

建築はバナキュラー(土着的)なもの

建築を志した頃にはわかりませんでしたが、建築には、他の職業にない特徴があります。
それは、作品が残るということです。一旦建築されたら、普通は30年くらいはそこに建ち続けます。
これは特筆すべき特徴だと思います。現在、私は年間40~50位の建築に関りますが、その半数以上は水戸にあります。
一年間に40以上の建築が水戸に出来、それが30年続くと思うと、30年後には実に1200以上もの作品が存在することになります。
これは、大変なことなのです。

私の父は、原子力の分野では名の知れた研究者でしたが、一緒に晩酌をしていた時に、ふと、漏らしたことがありました。
「自分の研究は、素晴らしい成果だと自負していても、せいぜい2,3年で次の研究に塗り替えられてしまう。新しい研究成果が出てくると、それまでの研究は、忘れ去られてしまう。そういう意味では、お前の仕事は羨ましい。」 
私の作品は、決して世界に先駆けるようなものではありませんが、それでも、羨ましいと思われるのだなぁと、しみじみ思ったことがありました。
実は、あまり意識されていないけれど、これは建築に関わるものにとって、この職業の大きな利点であると思うようになりました。
私たちの作品は、好む好まざるに関わらず、そこに数十年以上存在し続けます。
そういう意味では、街に対して、大きな責任を担っているのです。
そして一方で、一つの地域で多くの作品を創るということは、その街をある方向に導くことが出来るということを意味しています。

実に20年以上も経て、自分がやりたかったことを理解できた気がしました。
というか、1漠然としたイメージで思っていたものを、具現化する方法を見つけたと言ったほうが、正確でしょうか。
しかも、訳も分からずイメージしていた頃よりも、ずっと力強く、ずっと具体的に、そして、ずっとスケール大きくです。
そういった思いを強くするにつれ、ビジネス以外の活動にも積極的に参加するようになりました。
老舗百貨店が移転するといえば、その跡地利用を提案して、地元新聞やラジオはもとより、テレビにも出て、それを嗅ぎつけた市長にも計画案を説明したり。
あるいは、地元主題の映画の企画(「桜田門外ノ変」)があるとなると、そのオープンセットの計画を提案し、映画会社と丁々発止やりあったり。
そんなことをするうちに、クライアントに対しても、街づくりを積極的に話するようになりました。
住宅を建てたいと依頼してきたお客様に対して、「貴方の家は、資産としては貴方のものだが、街並みという観点からみると、街の共有財産である。
したがって、こうこうこうあるべきである。」などと、偉そうなことを言うのですが、意外なほど多くのお客様は、なるほどと頷いて下さいます。

もう一つ、最近になってわかったことがあります。
建築はそれが建つ場所の気候風土、歴史・文化などの上に成り立つということです。
こんなこと、お題目としては昔から言われていることで、私も企画書などにそのようなことを散々書いてきましたが、それを最近になって、より強く実感するようになりました。
気候については、ただ単に気温や湿度や降水量といったデータだけでなく、どの時期に、どれ位の風が、どちらから吹くといったように、より詳細で、より生活に密着したデータを蓄積できるようになりました。
例えば、水戸では海のほうから吹く北東の風が強く、これが悪さをすることが、ままあります。
特に強い雨が降るときはこの傾向が強く、北東方向の壁や窓は、漏水に対して、他の部位よりも慎重な設計と施工が必要です。こういったことは、この地で長く生活し、設計をしていて初めてわかることです。少なくとも昔、全国各地で仕事をしていた時は、こんな細かい気候までは把握していませんでした。
また、歴史については、自分でも驚いたのですが、例えば私の生活圏が、知らず知らずのうちに、旧水戸藩の領地に一致していることに、最近気がつきました。例えば買い物や食事に行く時に、同じ移動距離でも、こちら方向には行くけれど、こちら方向にはあまり行かないということがあるのです。
水戸の歴史など全く意識していませんでしたが、江戸時代からの風習や感覚が、小さい頃から知らず知らずのうちに、私にも染み込んでいたのでしょう。

ここ最近、強く思うのは、建築はバナキュラー(土着的)なものということです。
建築家は、その地方の気候風土や歴史・文化、そして現在の状況など、さまざまな背景を把握し、自らの中で熟成し、そこに新たな建築を生み出すべきだと思います。
それが、その地域の誇りを醸成し、また新たな文化を生み出すことになると信じているからです。

建築設計という職業

私は常々、職業には3つの要素があると思ってきました。その3つとは、社会性、自己実現性、収益性です。

まず、社会性です。社会性といったときに、大きく2つの要素があります。
ひとつは、建築設計というサービスを提供して、一人ひとりのお客様に喜んでいただくこと。
もうひとつは、街を良い方向に導くことだと思っています。

まず、目の前の施主に喜んでいただくこと。
これはサービス業としては、当然のことなのですが、これがなかなかできません。
どうも、技術者というのは、素人にはできないことをやっているという自負からか、独りよがりになりがちです。
でも、高級なホテルほど、ホテルマンは腰が低いものです。
高品質なサービスとは、どれだけお客様のニーズを把握し、それに応えられるかということです。
ただ単に建築文化的に良い建築、あるいは自分がやりたい面白い建築を創ればよいというのではなく、お客様自身が、その価値を理解し、それを欲しいと思って初めて、良い建築なのです。
そうは言っても、ただ単にお客様の言うことを図面化していていただけでは、プロの設計者とは呼べません。
幅広い知識や経験の中から、お客様が漠然とイメージしているものを具現化してみせる、時としてお客様の期待以上のものを提案して見せてこそ、プロと呼べると思います。CS(customer satisfaction:顧客満足)とはよく言われる言葉ですが、私はこの言葉が好きではありません。「満足=期待していたものが提供される」だからです。
そうではなくて、お客様が、漠然とイメージしていたけど、具体化できずにいたものを提示し、期待していた以上のものを提供し、喜んでいただく。いわばCD(customer delight:顧客歓喜)をやるべきだと思っています。
それこそが高品位のサービスだと思うからです。
そういう一つ一つの積み重ねが、良い建築を創り出すことになり、結果として良い街を作ることになるのです。

一方、街を良い方向に導くためには、お客様だけを見ていては、わからないことがあります。
それには、街に対する、確固たるビジョンが必要です。一人のクライアントが、街に対するビジョンを持つというのは、現実的にはあり得ません。
明確で確固たるビジョンを示し、お客様を時には説得し、出来上がる建築と、その建築が構成要素となる街に対して、責任を持つことは、私たちに課せられた社会的使命だと思います。
何故なら、建築士は独占資格だからです。
建築士じゃないと、建築の設計はできないのですから、その特権を得たものは、それに見合う社会的責任を負うべきです。
そうでなければ、街はいつまでたっても、良くなりません。
行政が様々な規制をかけて、誘導することはできますが、一つ一つの建築は、私たちだけが設計できるのです。
言い換えれば、街を良くしようと、形づくることができるのは、私たちだけなのです。

次に、自己実現性です。
その仕事をしていることと、自分の人生をシンクロさせることができるかどうか、ということだと思います。
仕事は仕事、収入を得るためにやっていて、定時に終えて家庭に帰ってからが、自分の人生だという考え方もあるのでしょうが、私は、そうではなく、スタッフ一人ひとりが、建築家としての生き方を好きになり、それを自分の生き様だと思ってほしいと願っています。
もちろん私自身は、この仕事を天職だと思い、自分の自由になる時間は、ほとんどをこれにつぎ込んでいます。よく、無趣味だとか、仕事人間とか言われますが、私にとっては、建築の設計は、最も好きで、最も自分を表現できることなので、その他の趣味などをやる気にならないのです。
私の師匠である鈴木先生も仙田先生も、同じでしたので、私的には全く普通のことなのですが、どうも、一般的には奇異にみえるようです。
でも、こういう風に思えるのは、設計が芸術的側面を強く持っているからだと思っています。
似たような職業、例えばグラフィックデザイナーや、インテリアデザイナーなども、一流と思える人ほど、同じような傾向があります。
きっと、仕事そのものが面白いからでしょう。
こんな生き様を、人に強要する気は全くありませんが、同じような思いを持つ人にとっては、当社はきっと楽しい職場だと思います。
仕事をしながら自分自身のスキルを高め、経験を積み、いずれは一人の建築家として、お客様と対峙することは、とても楽しいことです。
そうして、独立するもよし。事務所を引き継ぐもよし。
仕事であるからには、辛いこともいっぱいありますが、それを乗り越えて、設計という職業を、心から楽しんでほしいと、いつも真剣に願っています。
日本は、世界的に見て、50年、100年と長く続く企業が傑出して多い国だそうです。
そういう会社は、例外なく、社員を愛し、大切に育てているそうです。
私たちも、同じような志をもつ次代の人たちに、少しでも良い影響を与えることができれば、幸いですし、そうなる可能性のある原石を磨くことには、労力を惜しまないつもりです。

収益性は言うまでもなく、社員全員が、きちんとした生活を営むだけの収入を得られるということです。
いくら社会の役に立って、自己実現に繋がっても、これができなければ、それは職業ではなく趣味です。
特別高収入である必要はありませんが、キチンとした文化的な生活が送れるくらいの収入を保証できなければ、会社は続きません。
水戸の人々のことを考え、歴史を重んじ、未来に希望の持てる建築を創造すること、それが建築家それぞれの目的となり、趣味と仕事が一致し、その目的を達成することが自己実現に繋がるようになれば、自然に収益性の向上につながり、結果として社員の生活も向上します。
社員一人一人が、真摯にお客様と建築に向き合うことができてこそ、会社は成長を続け、収益を上げることができます。
それを実現し続けると、必然的に一番になるのです。

エイプラス・デザインの目指すもの

長々と話してきましたが、エイプラス・デザインの目指すことは、ここまで話してきた様々な経験と考えに立脚しています。

一言でいえば、「地域の未来を創る設計事務所」です。そのために

・クオリティ(質)・クオンティティ(量)共に、地域一番となり、地域の建築界を牽引すること。
・時流に対応し、地域社会に積極的に働きかけて、啓蒙活動を行うと共に、良い建築を創り良い街づくりを実践すること。
・優秀な原石を見つけ、それを磨き、次代を牽引する人材を育成すること。
これらを全力で遂行していきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

私はとても幸運な人間で、今いるスタッフも、お付き合いさせて頂いたクライアントも、本当に素晴らしい人たちばかりです。

とても楽しい会社です。共感を持っていただいた方には、スタッフとしてでも、クライアントとしてでも、是非、参加していただきたい、是非、同士と成っていただきたいと思っています。
興味を持っていただいた方、肯定でも否定でも構いません。是非、ご感想・ご意見をお聞かせ下さい。宜しくお願いいたします。